【今回の歌】

式子内親王(89番)『新古今集』恋一・1034

玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることのよわりもぞする

今年もついに晦日を迎えました。本年は本当に多数の読者の方々にご愛読いただき、誠にありがとうございました。弊庵のお菓子はもちろん当メルマガも、来年も変わらぬご愛顧を賜りますようよろしくお願いいたします。

さて、この号が届けばすぐお正月です。お正月といえば家族一堂に会して百人一首のかるた取りなどはいかがでしょうか。初春のテレビでも、よく名人同士の大会が行われているようです。しかし、本来百人一首は恋の歌が多いんですよね。着物を着た若い女性が、目にも止まらぬ早業でかるたをぱしっと取ってしまう姿を見ながら、ついそういうことを思い出していると、微笑が沸き上がってきませんか。もちろん、百人一首のクイーンも、普段はしとやかな女性なのは間違いないのでしょうが。今回は、美しい女性の忍ぶ恋の歌です。


●現代語訳

我が命よ、絶えてしまうのなら絶えてしまえ。このまま生き長らえていると、堪え忍ぶ心が弱ってしまうと困るから。


●ことば

【玉の緒】
もともとは、首飾りなどに使われる玉を貫いた緒(を。ひものこと)のことです。しかしここでは「魂を身体につないでおく緒」の意味で使われています。「絶え」「ながらへ」「よわり」は、緒の縁語で、どれも緒の状態に関係しています。

【絶えなば絶えね】
「絶えてしまうのなら絶えてしまえ!」という意味の語気の強い言葉です。下二段動詞「絶ゆ」の連用形に完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」と接続助詞「ば」で、順接の仮定条件「絶えてしまうのなら」になります。下の「絶えね」の「ね」は完了の助動詞「ぬ」の命令形で、「絶えてしまえ!」という意味です。

【ながらえば】
「絶えなば」と同じく、下二段動詞「ながらふ」の未然形に接続助詞「ば」がついて、順接の確定条件を示します。「生き長らえてしまうのならば」というような意味です。

【忍ぶる】
「堪え忍ぶ」という意味です。上二段動詞「忍ぶ」の連体形です。

【よわりもぞする】
係助詞「も」と「ぞ」が重なり、「~すると困る」という意味になります。「ぞ」+「する」で係り結びになります。秘めた恋を堪え忍ぶ気持ちが弱くなって、恋が露見すると困る、というような意味になります。


●作者

式子内親王(しょくし(または、しきし)ないしんのう。生年  未詳~1201年)

後白河院の第三皇女で、「大炊御門斎院(おおいのみかどいつき)」と称されました。賀茂斉宮(かもさいぐう)などを務めましたが、実兄の以仁王(もちひとおう)が源頼政(みなもとのよりまさ)が当時政権を握っていた平氏に対して挙兵し失敗した事件に連座。1197(建久8)年頃に出家しました。新古今集時代の代表的な女流歌人で、藤原俊成の弟子でした。なんと、藤原定家と恋愛関係にあったという説もあります。


●鑑賞

このまま生きながらえていると、今まで堪え忍んできたあの人への恋心の堰が破れてしまい、恋心が他人に知られるかもしれません。私の魂よ、絶えるのならば今絶えてしまっておくれ。恋を忍ぶ意志が弱くなっても困るから。

百人一首を代表する抑えた恋の激情を感じさせる歌です。死んでもかまわないから、この忍ぶ恋を世間に知られぬようにしておくれ。なんという強烈な女性でしょうか。この歌はもともと「忍ぶ恋」という題を与えられていたと、新古今集の詠題にあります。現代の我々から考えてみると、そうまでして恋を秘めなくてもと思うのですが、妻ある人への恋などはこんな気持ちになるのかもしれませんね。

この歌の人気は高く、詩人の萩原朔太郎も「悲恋の歌人 式子内親王」の中で、「式子内親王の歌は、他の女流歌人のそれと違って、全くユニイクで独自の情趣をもっている。それは和泉式部の歌のように、外に向かって発する詠嘆ではなく、内にこめて嘆く歔欷(きょき=すすり泣き)であり、特殊な悩ましい情熱の魅力を持っている」と書いています。モダンで都会的であり、ナイーブかつ哀感にあふれた詩を数多く作った朔太郎は、どこかで式子内親王が自分と相通ずると思っていたのかもしれません。

さて、今回は晦日ですので、除夜の鐘で有名な京都の知恩院をご紹介しましょう。知恩院は浄土宗の法然上人が入滅(そこで亡くなった)したお寺で、大小106棟の建物からなり、日本一大きな山門と、70トンもある日本一大きな鐘で知られています。知恩院の鐘は、毎年必ず年越しの番組で紹介されるほど有名でですので、かなりの方がご存じでしょう。大きい故に他の鐘よりずっと低い、ブオーンという重厚な音で親しまれています。電車で行かれる場合は、京都市営地下鉄東西線東山駅から徒歩約10分、また京阪電鉄四条駅から徒歩で約15分の距離にあります。京都市バスの場合は、知恩院前バス停から徒歩約7分です。ただし、大晦日は非常に混雑しますのでご注意ください。それでは、良いお年をお迎えください。来年もいい年でありますように。