次は藤原良経(よしつね)の一首。
本歌を知らなくてもよくわかる歌です。
きりぎりすなくや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む
(九十一 後京極摂政前太政大臣)
霜が降りるような寒い夜 こおろぎの鳴き声を聞きながら
わたしは筵(むしろ)に衣の片袖を敷いてひとりで寝るのか
孤独な秋の夜を思わる歌です。これの本歌は次の二首。
あしひきの山鳥のをのしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む
(三 柿本人麻呂)
山鳥の長く垂れる尾のように
長い長い秋の夜を わたしはひとりで寝るのだろうか
さむしろに衣かたしきこよひもや 我をまつらんうぢのはし姫
(古今集 恋四 よみ人知らず)
筵に衣の片袖を敷いて(独り寝をして)
今宵もわたしを待っていることだろう 宇治の橋姫は
本歌はどちらも恋の歌です。
良経は二つの本歌の恋の思いを活かし、
さらに「きりぎりす」と「霜夜」という寂寥感をかき立てる語句を選んで、
このような秀歌を産み出したのです。
さて、ここで女性歌人に登場してもらいましょう。
二条院讃岐(にじょういんのさぬき)です。
わが袖は潮干に見えぬ沖の石の 人こそ知らね乾く間もなし
(九十二 二条院讃岐)
潮が引いたときでさえ水面に見えない沖の石のように
人は知らないでしょうが わたしの袖は乾く間もないのです
この歌の本歌となったのは和泉式部(五十六)の作品です。
わが袖は水の下なる石なれや 人に知られで乾く間もなし
(和泉式部集)
わたしの袖は水の中の石でしょうか
人に知られることもなく乾く間もないのですから
これなどは本歌を超えてしまっていますね。
讃岐はこの歌をきっかけに「沖の石の讃岐」という
ニックネームで呼ばれるようになったそうです。
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