ちょっと差がつく百人一首講座/京都のおかき・あられ・おせんべい・和菓子処小倉山荘

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【2003年1月25日配信】[No.098]
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 【今回の歌】

  見せばやな 雄島(をじま)の蜑(あま)の 袖だにも
   濡れにぞ濡れし 色は変はらず

          殷富門院大輔(90番) 『千載集』恋・884

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  1月も下旬。お正月気分もさすがに抜けてしまった頃です。
 今は暦でいうと一年で一番寒い「大寒(だいかん)」にあたりま
 す。夜は本当に冷え込みが厳しいですが、昼は意外に好天が続い
 ています。
  冬の晴れ間は貴重です。太陽の位置が低いので、住宅が密集し
 ているところでは、昼を過ぎるともう建物の影になって陽が射さ
 なくなる家もあるでしょう。午前中から布団や洗濯物を干して、
 きっちり乾かしておきましょう。
  うちは乾燥機があるから、なんて言わないで。太陽の光の殺菌
 効果は非常に高いですし、何より日光で乾かした洗濯物は干し草
 のように爽やかでほのかに甘い匂いがします。
  ただし中には、ためた洗濯物をたまーに洗ったら必ずその日雨
 が降るなんていう、しょうがない人もいるでしょうけれども。

  天気の話をしたからではないですが、今回は泣きすぎて袖が乾
 かず、ついには血の涙を流すという強烈な一首です。
  
■□■ 現代語訳 ■□■
  
 あなたに見せたいものです。松島にある雄島の漁師の袖でさえ、
 波をかぶって濡れに濡れても色は変わらないというのに。(私は
 涙を流しすぎて血の涙が出て、涙を拭く袖の色が変わってしまい
 ました)
 
■□■ ことば ■□■

 【見せばやな】
 「ばや」は願望の終助詞で、「な」は詠嘆の終助詞です。「見せ
 たいものだ」という意味になります。
 【雄島(をじま)の蜑(あま)の】
 「雄島(をじま)」は、歌枕としても有名な陸奥国(現在の宮城
 県)の松島にある島のひとつです。「蜑(あま)」は漁師のこと
 で、海女と違い男女どちらでもこう言います。
 【袖だにも】
 「だに」は「〜でさえ」という意味の副助詞です。「袖でさえ」
 という意味になります。
 【濡れにぞ濡れし】
 格助詞「に」は同じ動詞を繰り返して、意味を強める時に使われ
 ます。「ぞ」は係結びになる係助詞で、過去の助動詞「き」の連
 体形「し」が結びになります。
 【色は変はらず】
 袖の色が変わるのは、泣きすぎて涙が枯れ、ついには血の涙が流
 れるためです。中国の故事によります。

■□■ 作者 ■□■

  殷富門院大輔(いんぷもんいんのたいふ。1131頃〜1200頃)
  従五位下・藤原信成(のぶなり)の娘で、後白河天皇の第一皇
 女、亮子(りょうし)内親王(式子内親王の姉で、後の殷富門院)
 に仕えました。当時は、小侍従(こじじゅう)と並ぶ女房の歌人
 として有名でした。非常にたくさんの歌を詠み、「千首大輔」と
 言われています。建久3(1192)年に殷富門院に従って出家し、尼
 となっています。
  
■□■ 鑑賞 ■□■

  この歌は百人一首にも登場する源重之(みなもとのしげゆき)が
 作った
  松島や 雄島の磯にあさりせし あまの袖こそ かくは濡れしか
 という歌を本歌(ほんか)にした「本歌取り」の歌です。
  本歌取りというのは、昔の有名な歌の一部を引用したりさまざま
 にアレンジして新しい歌を作る、和歌の技法のひとつです。
             ◆◇◆
  重之の歌は「(つらい恋で涙を流し)松島の雄島の漁師の袖くら
 いだろう、私の袖のように濡れているのは」と詠っています。
  大輔は、重之に答えて(返歌)「私の袖こそ見せたいものです。
 涙も枯れて血の涙が流れ、色が変わってしまったのですから。松島
 の雄島の漁師の袖でもこうはならないでしょう」と詠ったのです。
  辛い恋で泣き続ける女性の激情を詠った一首ですが、あたかも重
 之と時代を超えて歌で恋の問答をしているようですね。
  本歌取りは、百人一首の撰者、藤原定家の時代に流行ったもので
 すが、なかなか粋なテクニックだと感じられます。
             ◆◇◆
  この歌は「袖の色が変わる」と語って、涙が枯れて血の涙が出る
 ほど激しく泣いたことを暗示しています。
  ちなみに「血涙」というのは、中国の古典から来た言葉です。
  韓非子によると「ある農夫が畑で玉(ぎょく=宝石の一種)の巨
 大な原石を見つけた。王に2度献上したが磨いても石のままだった
 ので、両足を切られてしまった。そこで農夫は激しく泣いて血の涙
 を流した。結局3度目に玉が磨き出され、農夫はやっと称えられた」
  という話などが元です。なげく心を(やや大げさに)表現した言
 葉としてよく使われます。
             ◆◇◆
  この歌に登場する松島は、日本三景のひとつで古くから歌枕とし
 て知られる観光地、宮城県の松島です。JR東北本線松島駅で下車し
 ます。湾に約260もの島が浮かび、海水によって奇妙な形に削られた
 島々とそこに生える松の風景が絶妙です。また、坂上田村麻呂が807
 年に建立した五大堂や、伊達政宗の甲冑を納めた青龍殿や瑞巌寺な
 どの歴史ある建物も数多くあります。さらに松尾芭蕉をはじめ、西
 行法師ゆかりの「行戻しの松」など名所も多く、観光にはもってこ
 いでしょう。

 

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