ちょっと差がつく百人一首講座/京都のおかき・あられ・おせんべい・和菓子処小倉山荘

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【2001年5月30日配信】[No.026]
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 【今回の歌】

   思ひわび さても命は あるものを
    憂(う)きに堪へぬは 涙なりけり

          道因法師(82番) 『千載集』恋3・817

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  あなたにとって恋愛とは何でしょうか。 楽しく華やかな今こ
 の時? 相手を思いやるやさしさ? 悩みばかりの辛いこと? 
 過ぎ去りし日の花火? 和歌というものが、男女の恋心を伝える
 ために使われたからでしょうか、百人一首にはたくさんの恋の歌
 が盛り込まれています。
  今回の歌の作者は老境に入ったお坊さんなんですが、歌の内容
 はつれない相手への辛い恋。それは遠い日の花火なのかもしれま
 せん。

■□■ 現代語訳 ■□■
  
  つれない人のことを思い嘆きながら、絶えてしまうかと思った
 命はまだあるというのに、辛さに絶えきれずに流れてくるのは涙
 だったよ。
 
■□■ ことば ■□■
 【思ひわび】
  「思いわぶ」というのは、つれない相手に思い悩む気持ちを表
 す心情語で、恋歌によく使われます。
 【さても】
 「そうであっても」の意味です。
 【命はあるものを】
 「命は」の「は」は、他のものと区別する係助詞。「ものを」は
 逆接の接続助詞で、次の「涙」に対して「命は死なずに残ってい
 るのに」というような意味を表します。
 【憂きに】
 「憂き」は形容詞「憂し」の連体形で、想いがかなわない憂鬱の
 意味。「に」は格助詞です。
 【堪へぬは】
 「堪へ」は「堪ふ」の未然形で「こらえる」という意味です。
 「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形、「は」は前の「命は」と
 同じく他と区別する係助詞で、全体として「こらえられないのは」
 という意味になります。
 【涙なりけり】
 「なり」は断定の助動詞の連用形、「けり」は詠嘆を表す終助詞で
 「涙だったんだなあ」というような意味を表します。
 
■□■ 作者 ■□■
  道因法師(どういんほうし。1090〜1182年)
 藤原敦家(あついえ)。従五位・左馬助(さまのすけ)でしたが、
 80歳を過ぎてから出家しました。晩年は比叡山に住みましたが、
 非常に長命で元気で、90歳を過ぎてから耳が遠くなっても歌会に出
 て講評を熱心に聞いていたそうです。本当に歌好きだったからか、
 死後、千載集に多くの歌が掲載されたのを喜び、選者・藤原俊成の
 夢に出てきてお礼を言ったという逸話が残っています。

■□■ 鑑賞 ■□■

  こんなに恋しているのに、どうしてあの人への想いは通じないの
 だろうか。つれないあの人をひたすら思い続けて、もう考える気力
 も失ってしまった。
  それほど疲れ果ててしまったけど、命はなくならずにまだ堪えて
 いるというのに、堪えきれずに落ちてくるのは涙だったんだなあ。
             ◆◇◆
  百人一首には堪える恋を歌った歌がいくつもありますが、これも
 そのうちの代表的なものといえるでしょう。耐え難い恋をしのぶの
 は女の人ばかりというわけではありません。道因法師は老人で、し
 かも男ですが、若き頃の辛かった恋の思い出を歌にしたのでしょう
 か。まあ当時の恋の歌は、本当かなあと思うくらい喜び悲しみを誇
 張した歌も多いのですけど、これも激烈なくらいの辛さがひしひし
 と伝わってくる歌です。
  ただしこの歌、最初の「思ひわび」が恋歌の常套句なので恋の辛
 さを歌ったものだと解釈しがちですが、作者の年齢などを考えあわ
 せ、実は「過ぎ去った人生そのものへの哀悼」を思う歌だとする解
 釈もあるのです。
  生きながらえる物体である「命」と、堪えきれない心の象徴であ
 る「涙」とを対比させたこの歌、一見恋を歌いながら老境に入った
 人生を述懐する、深い歌だといえるかもしれません。
             ◆◇◆
  ところでこれほど憂鬱な歌を作った道因法師ですが、本当に歌が
 好きだったようで、死後千載集に歌をたくさん載せてもらったお礼
 をしに藤原俊成の夢枕に立ったとか、ちょっとおちゃめなエピソー
 ドも残されています。
  千載集に入っている彼の歌には、他に
  
  八橋(やつはし)の 辺(わた)りに 今日も泊まるかな
   ここに住むべき 身かは(三河)と思えば
 
 などがあります。
 三河の八橋というのは、現在の愛知県知立(ちりゅう)市にある、
 逢妻(あいづま)川の南の場所です。八橋は古くからの歌枕で、在
 原業平を主人公にした歌物語「伊勢物語」でも業平が立ち寄ったり
 安藤広重が東海道五十三次の一枚として描いたりもしています。
  市内には歴史民俗資料館があり、またかきつばたで有名な無量寿
 寺などもあります。また2年に1度、巨大な山車が出てその上で文
 楽が演じられる「知立まつり」(国指定重要無形民俗文化財)など
 も行われたりもし、見所の多い古都だといえるでしょう。
  訪れる場合は、私鉄の名鉄名古屋本線知立駅で下車します。

 

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