【今回の歌】

左京大夫顕輔(79番)『新古今集』秋・413

秋風にたなびく雲の絶え間より もれ出づる月の影のさやけさ

10月といえば冴えた夜空に輝く月が美しい時期です。月見団子を三方に載せススキを飾る「お月見」をするご家庭はもう少ないかもしれませんが、ふと外出した夜の中天に丸く昇った満月を眺めて、秋の実感を深めるのも良いでしょう。

今年の「中秋の名月」は9月21日。旧暦の8月15日の満月を鑑賞する行事です。例年より早いため、つい見逃してしまった方もいるでしょうが、次の満月である10月21日に、秋の月の美しさを堪能してはいかがでしょう。今回は秋の月を描いた一首です。


●現代語訳

秋風に吹かれて横に長くひき流れる雲の切れ目から、洩れてくる月の光の、澄みきった美しさといったらどうだろう!


●ことば

【秋風に たなびく】
「に」は原因を示す格助詞です。動詞の連体形「たなびく」は「横に長くひく」という意味で、「秋風に吹かれて、横長に伸びてただよう」という意味になります。

【雲の絶え間より】
「絶え間」は「とぎれたその間」という意味です。「より」はここから、という起点を表す格助詞です。

【もれ出づる月の 影のさやけさ】
動詞「もれ出づる」は「もれ出づ」の連体形で、「こぼれ射してくる」というような意味です。また「影」はこの場合「光」で、「月の影」は「月の光」を意味します。「さやけさ」は形容詞「さやけし」を名詞化したもので、「澄みわたってくっきりしていること」という意味になります。


●作者

左京大夫顕輔(さきょうのだいぶあきすけ。1090~1155)

本名・藤原顕輔(ふじわらのあきすけ)で、正三位左京太夫にまで昇進しました。勅撰和歌集の「詞華集」の撰者です。父は藤原顕季(あきすえ)で摂関家並みの勢いがあり、「六条藤家」として知られています。


●鑑賞

この歌は久安6年に崇徳院に捧げられた百首歌「久安百首」で披露されたものです。「百首歌」というのは、いくつかのお題に沿って詠んだ歌(題詠)を100首集めたもの。百人一首の中の崇徳院の歌(77番)も久安百首から取られています。

秋の澄みわたった夜空を足早に流れていく細い雲。その隙間から洩れてくる月光の美しさ。ダークブルーの夜の空が目に浮かぶようです。シンプルに秋の見どころを描ききっていて、しかも非常に格調が高い歌で、3代にわたる歌学の権威・六条藤家の主の実力が伺い知れます。

「中秋の名月」の中秋とは8月のことで、旧暦では7・8・9月を秋と定め、7月を「孟秋」、8月を「仲秋」、9月を「季秋」としたことからきています。ちなみに孟は「はじめ」という意味で季は「末」という意味を表します。元々は中国の「望月」という行事が日本に持ち込まれて貴族が祝うようになり、江戸時代に一般庶民にも広まったということ。ちょうど秋の収穫前に、豊作を祈願したものとも言われます。

名月を眺める「観月」の行事で名高いのは京都右京区の大覚寺でしょう。中秋の名月には「観月会」が開かれ、大沢の池に竜頭船が浮かべられて月を楽しみます。11月には菊の展覧会なども開催されます。電車で行かれる場合は、JR山陰本線嵯峨嵐山駅から歩いて15分になります。