ちょっと差がつく百人一首講座/京都のおかき・あられ・おせんべい・和菓子処小倉山荘

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【2001年3月10日配信】[No.018]
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 【今回の歌】

   音に聞く 高師(たかし)の浜の あだ波は
     かけじや袖の ぬれもこそすれ

      祐子内親王家紀伊(72番) 『金葉集』恋下・469

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  前回に引き続き恋の歌です。
  平安時代の恋愛は、女の家へ男が通う形式でした。だからどう
 しても男尊女卑のイメージが強いのですが、どうしてどうして女
 も負けてはいません。
  この一首はプレイボーイからの誘いかけを、見事に切り返した
 粋な歌です。実はこの歌、男は29歳、詠んだ女性はなんと70歳。
  さてこの勝負の結末やいかに?
 
■□■ 現代語訳 ■□■
  噂に高い、高師(たかし)の浜にむなしく寄せ返す波にはかか
 らないようにしておきましょう。袖が濡れては大変ですからね。
 (浮気者だと噂に高い、あなたの言葉なぞ、心にかけずにおきま
 しょう。後で涙にくれて袖を濡らしてはいけませんから)
 
■□■ ことば ■□■
 【音に聞く】
  「音」はここでは「評判」のことで、「噂に名高い」という意
 味です。
 【高師(たかし)の浜】
 和泉国(現在の大阪府南部の堺市浜寺から高石市あたりの一帯)
 の浜です。ここでは「高師」に「高し」を掛けた掛詞とし、「評
 判が高い」を意味させています。
  また「浜」は、「波」「ぬれ」の縁語です。
 【あだ波】
  いたずらに立つ波、むなしく寄せ返す波のことですが、ここで
 は浮気な人の誘い言葉のことを暗に言っています。
 【かけじや】
 「かけまい」の意味で、「波をかけまい」と「想いをかけまい」
 の二重の意味を込めています。「じ」は打消の意思の助動詞で、
 「や」は詠嘆の間投助詞です。
 【袖のぬれもこそすれ】
 「袖が濡れる」というのは、涙を流して袖が濡れるという意味が
 あり、恋愛の歌でよく使われます。恋する想いが嵩じて涙を流す
 ということですね。ここでは、波で袖が濡れるのと、涙で袖が濡
 れることを掛けています。
 「も・こそ」はそれぞれ係助詞で、複合すると後で起きることへ
 の不安を意味します。

■□■ 作者 ■□■
  祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい。
    =一宮紀伊 いちのみやきい 11世紀後半)
  平経方(たいらのつねかた)の娘で、藤原重経(しげつね)の
 妻(妹という説も)。母親は後朱雀天皇の第一皇女・祐子内親王
 に仕えた小弁(こべん)で、紀伊自らも祐子内親王家に仕えまし
 た。紀伊の名前は、藤原重経が紀伊守だったところからきていま
 す。

■□■ 鑑賞 ■□■
  「金葉集」の詞書では、この歌は1102年5月に催された「堀川
 院艶書合(けそうぶみあわせ)」で詠まれたそうです。「艶書合」
 というのは、貴族が恋の歌を女房に贈り、それを受けた女房たち
 が返歌をするという洒落た趣向の歌会です。
             ◆◇◆
  そこで70歳の紀伊に贈られたのが29歳の藤原俊忠の歌でした。

 「人知れぬ 思いありその 浦風に 波のよるこそ 言はまほし
 けれ」(私は人知れずあなたを思っています。荒磯(ありそ)の
 浦風に波が寄せるように、夜にあなたに話したいのですが)
 
  「寄る」と「夜」、「(思い)ありその」と「荒磯(ありそ)」
 を掛けた技巧的な歌ですが、これに対して答えたのが、紀伊の歌
 でした。
             ◆◇◆
  29歳の若き俊忠が70歳の女房・紀伊に恋歌を贈るというのはち
 ょっと皮肉な感じもします。周りも面白がったのかもしれません
 が、そこでこんな素晴らしく粋な歌を返されて、俊忠や歌会の参
 加者はどう思ったでしょうか。70歳の老女の歌の才能に思わず息
 をのみ、感嘆したのではないでしょうか。
  29歳と70歳の男女の恋歌の交歓。取り合わせの妙もさることな
 がら、そこでこのような薫り高い歌が詠まれたことを想像すると
 平安歌人たちの遊びの典雅さに、羨望さえ感じてしまいます。
             ◆◇◆
  この歌の舞台となった和泉国高師浜は、今の大阪府堺市浜寺か
 ら高石市におよぶ一帯です。現在では残念ながらこの辺りは埋め
 立てが進み、平安の風雅をしのぶ風情はありませんが、松の姿に
 この歌を思い出して見るのもよいでしょう。

 

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