ちょっと差がつく百人一首講座/京都のおかき・あられ・おせんべい・和菓子処小倉山荘

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【2002年1月30日配信】[No.050] 
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 【今回の歌】

  あはれとも いふべき人は 思ほえで
   身のいたづらに なりぬべきかな

            謙徳公(45番) 『拾遺集』恋五・950

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  ついこの前、お正月を迎えたと思ったら、もう2月も間近です。
  暖かい都市部でも雪がちらほら舞っています。寒い時期がもう
 少し続きますが、体調を崩さずにがんばりましょう。
 
  今回は、偶然ですが前回に引き続き男の失恋の歌。なぜこの寒
 い時期にさむーいテーマを、と思われるかもしれませんが、男心
 もなかなかナイーブなもの。でも、もうちょいシャキッとしなさ
 い! と言いたくなりますね。

■□■ 現代語訳 ■□■
  
  私のことを哀れだと言ってくれそうな人は、他には誰も思い浮
 かばないまま、きっと私はむなしく死んでいくのに違いないのだ
 なあ。
 
■□■ ことば ■□■

 【あはれとも】
 「あはれ」は「かわいそう」「気の毒に」などの意味の感動詞。
 「とも」の「も」は強調の係助詞です。
 【いふべき人は】
 全体で「言ってくれそうな最愛の人は」という意味です。「べき」
 は当然の意味の助動詞「べし」の連体形で、「人」は「最愛の人」
 のことを意味します。
 【思ほえで】
 「思ほえ」は下二段活用動詞「思ほゆ」の未然形で「思い浮かぶ」
 の意味、「で」は打消の接続助詞で「思い浮かばず」という意味に
 なります。
 【身のいたづらに】
 「いたづら」は「はかない」とか「無駄だ」という意味で、「身を
 無駄にする」→「死ぬ」ことを意味します。しかもむなしい死に方
 です。
 【なりぬべきかな】
 「ぬ」は完了の助動詞で、「べき」は推量の助動詞「べし」の連体
 形であり、「ぬべし」で強調の意味です。全体で「なってしまうの
 だろうなあ」という意味になります。

■□■ 作者 ■□■

  謙徳公(けんとくこう。924〜972)
  生前の名前を藤原伊尹(ふじわらのこれただ)といい、右大臣師
 輔(もろすけ)の長男です。娘が冷泉天皇の女御となり、花山天皇
 の母となったため、晩年は摂政・太政大臣にまで昇進しました。自
 邸が一条にあったので「一条摂政」と呼ばれます。和歌所の別当と
 して、当時の和歌の名手を集めた梨壺の五人(清原元輔・紀時文・
 大中臣能宣・源順・坂上望城)を率いて、後撰集の選定に関わりま
 した。才色兼備の貴公子だったようです。建徳公はおくり名です。
  
■□■ 鑑賞 ■□■

  あなたをずっと愛しく思っております。あなたに恋いこがれ続け
 ても、そんな私のことを哀れだと言ってくれそうな女性は他に誰も
 見あたらないまま、むなしく無駄に死んでいくのでしょうか。
             ◆◇◆
  江角マキコや米倉涼子などを代表として、今は女性が強くてかっ
 こいい時代です。男より颯爽としてさっぱりする、過去を振り返ら
 ない魅力に溢れていますが、じゃあ男はそんな女性に振り回されて
 さめざめと泣いているのでしょうか?
 「拾遺集」の詞書には「もの言ひはべりける女の、つれなくはべり
 て、さらに逢はずはべりけれ」とあり、言い寄った女性がだんだん
 冷たくなって逢ってもくれなくなったから詠んだんだそうです。
  言い寄った女性に嫌われたから、誰も私を可哀想だと言ってくれ
 ない、ああ、このままむなしく死んでしまうのだよ、と嘆いている
 ようですね。失恋の痛手に嘆く優男の風情で、ひょっとしたら母性
 本能をくすぐられる男なのかもしれません。
             ◆◇◆
  実はこの歌の作者、謙徳公は才色兼備の相当な風流貴公子だった
 ようです。この人が「ああ、このまま嘆き悲しんで私は死んでしま
 うのだろうか」なんて言ったら、周りの女性が「ああ、なんてこと
 でしょう」とわっと騒ぎたてたことでしょう。母性本能をかき立て
 るどころか、美男特有のパフォーマンスだったのかもしれませんね。
  でも今の世の中、本当にちょっとしたことで世の中に絶望して犯
 罪に走るとか、閉じこもってしまうことも多いですね。確かにスト
 レスの多い世の中ですが、男性も女性も一度くらいの失恋でくよく
 よせずに、独り身のイイ男イイ女はいっぱい世の中に余っているの
 ですから。明るくいきましょう。
             ◆◇◆
  この歌には特に名所が詠み込まれていませんが、「拾遺集」には
 同じ作者の
 暮ればとく 行きてかたらむ 逢ふことの 
  とをちの里の 住みうかりしも
 という歌が収められています。
  「とをち」は「十市」と書き、現在の奈良県橿原市十市町にあた
 ります。橿原市北部にあり、壬申の乱のただ中を生きた大海人皇子
 と額田王の娘、十市皇女の生まれ故郷だとされています。
  最寄り駅は近鉄田原本線新の口駅下車。橿原市には橿原神宮、昆
 虫館をはじめ、江戸時代の町並みを残す今井町など、見所が本当に
 多くあります。古歌のファンなら、この万葉の里をぜひ訪れてみた
 いものですね。

 

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