ちょっと差がつく百人一首講座/京都のおかき・あられ・おせんべい・和菓子処小倉山荘

『ちょっと差がつく百人一首講座』バックナンバー一覧へ

【2002年8月30日配信】[No.071]
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 【今回の歌】

  白露(しらつゆ)に 風の吹きしく 秋の野は
   つらぬき留めぬ 玉ぞ散りける

         文屋朝康(37番) 『後撰集』秋・308

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 
  あさってから9月。秋が始まります。
  夏の暑い日射しも和らぎ、徐々に涼しくなってきました。山か
 ら秋の赤とんぼが里へ下りてくる頃ですね。
  田舎では稲刈りや、ぶどう、桃、栗などといった秋のたわわな
 収穫の時期がもうすぐ。
  新学期がはじまった学校では、運動会や文化祭の準備に忙しく
 なります。
  秋は感傷の季節でもあり、思い出をはぐくむ時季でもあります
 が、それはきっと仕事や祭り、イベントなど、長く記憶に残りそ
 うな出来事がたくさん用意されているからでしょう。
  
  もうひとつ、秋のはじめの9月1日は「二百十日(にひゃくと
 おか)」。立春から数えてちょうど210日目に当たり、激しい風が
 吹く日が多いことでよく知られ、収穫を控えた農家にとっては注
 意日でした。
  今回は、そんな激しい風を美しく描いた歌をご紹介しましょう。
  
■□■ 現代語訳 ■□■
  
  草の葉の上に乗って光っている露の玉に、風がしきりに吹きつ
 ける秋の野原は、まるで紐に通して留めていない真珠が、散り乱
 れて吹き飛んでいるようだったよ。
 
■□■ ことば ■□■

 【白露(しらつゆ)に】
 「白露」は、草の葉の上に乗って光っている露、水滴のことです。
 「白(しら)」は、清らかさを強調する語で、「清祥とした露」
 というようなイメージです。
 【風の吹きしく】
 「しく」は「頻く」と書き、「しきりに〜する」という意味です。
 全体で「風がしきりに吹いている」という意味になります。
 【秋の野は】
 「は」は強調の係助詞で、「ここだけ」「この季節だけ」という
 ように、この歌に詠まれているような情景が秋だけのものである
 と強調する役目があります。
 【つらぬき留(と)めぬ】
 「ひもを通して結びつけていない」という意味になります。数珠
 のように、穴を空けたたくさんの玉を糸で通して結んでいるよう
 なものをイメージすると分かりやすいでしょう。「留めぬ」の
 「ぬ」は打消しの助動詞「ず」の連体形です。
 【玉ぞ散りける】
 「玉」は真珠という説が強いです。平安時代はいくつもの真珠に
 穴を開けて緒に通して、アクセサリーとして大切にしました。
 風に吹き散らされて翔ぶ草の露を、真珠のネックレスの緒がほど
 けて飛び散った様子に「見立て」ています。
 「けり」は感動を表す助動詞で、短歌ではおなじみですね。

■□■ 作者 ■□■

  文屋朝康(ふんやのあさやす。生没年未詳、9〜10世紀)
 百人一首の22番に歌がある文屋康秀(ふんやのやすひで)の息子
 です。駿河掾(するがのじょう)、大舎人大允(おおとねりのだ
 いじょう)などの役職に就きました。あまり高い官職ではありま
 せんでしたが、歌の才能は広く認められており、多くの歌会に参
 加したようです。
  
■□■ 鑑賞 ■□■

  雨が降って、野原一面に茂る薄(すすき)や茅(かや)の葉や
 茎に、露がついてきらきら光っている。
  そこに秋の台風(野分)の激しい風が吹き込んで、露が吹き飛
 ばされて飛んでいく。
  美しい景色。まるでネックレスがほどけて、真珠が飛び散って
 いくようだ。
  なんと秋らしい情景なんだろう。
             ◆◇◆
  今回の歌は、激しい風に吹き飛ぶ水滴を、ほどけた真珠が散る
 さまに見立てた非常に美しい歌です。
  藤原定家もこの歌を気に入っていたということで、日本の秋の
 情緒をきれいに描いた素直な歌だといえるでしょう。
             ◆◇◆
  平安時代には、真珠の玉に穴を開けて緒(お=ひも)を通して
 輪にし、アクセサリーとして身につけることが好まれていました。
  しかも、この歌に出てくるように「露」を「玉」と見立てて、
 「緒で貫く」という表現は、平安時代にはよく使われるパターン
 です。
  この歌では、露を「ばらけてしまった真珠」として見たことが
 新しく、また綺麗だといえます。
  よく、「美は乱調にあり」とか「和服の美女のおくれ毛が色気
 を感じさせる」などと言ったりします。きっちり整わずに乱れた
 ものの方に、美しさや艶っぽさを感じるのが人間の不思議な感覚
 でもありますよね。
  ここでは、繋ぎ留めずに「散りこぼれ、飛ばされる真珠」とし
 たところに作者の美的な感性が見られます。
             ◆◇◆
  さて、9月1日といえば「二百十日(にひゃくとおか)」です
 ね。二百十日は激しい風、台風が来やすい日として有名です。
  また、「二百十日」は文豪・夏目漱石の中編小説のタイトルで
 もあります。この小説は2人の若い男、豆腐屋の圭さんと碌さん
 が、調子よく語らいながら熊本県の阿蘇山を登り、二百十日の激
 しい風にひどい目に遭いながら、頂上に登っていくという話です。
  阿蘇山は熊本県にある、世界最大のカルデラ(陥没地)をもつ
 山です。煙を上げている中央火口丘をはじめ、三好達治の詩で有
 名で野生の馬が遊ぶ「草千里」、またあちこちに温泉が湧くなど
 一級の観光地です。
  中央火口のある中岳にはロープウェイで登ることができ、また
 阿蘇五山を眺めるなら、南外輪山にある俵山展望台がお勧めです。
  修学旅行で行ったきりだという人、水前寺公園や熊本城のある
 熊本市と併せてもう一度ゆっくり訪れてみられてはいかがでしょ
 うか。

 

『ちょっと差がつく百人一首講座』バックナンバー一覧へ


せんべい,煎餅,おかき,あられ,おせんべい【長岡京小倉山荘】
京都せんべいおかき専門店【長岡京小倉山荘】TOPへ