ちょっと差がつく百人一首講座/京都のおかき・あられ・おせんべい・和菓子処小倉山荘

『ちょっと差がつく百人一首講座』バックナンバー一覧へ

【2002年4月10日配信】[No.057]
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 【今回の歌】

  人はいさ 心も知らず ふるさとは
   花ぞ昔の 香(か)ににほひける

              紀貫之(35番) 『古今集』春・42

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

  4月です。新入学、新入社おめでとうございます。きっと希望
 に胸をふくらませていることでしょう。この春のぽかぽか陽気の
 ように、いいこといっぱい、の今年になればいいですね。
  学校や会社に慣れるにつれ、面白いことや逆につらいことも出
 てくるでしょうが、「笑門来福(笑う門には福来る)」といいま
 す。みんな最初は慣れないものですので、元気に笑い飛ばしてい
 きましょう。
  
  さて、春の歌で花といったら「桜」を真っ先に思い出しそうで
 すが、実は今の時期には梅もまだまだ美しく咲きほころんでいま
 す。今回は平安時代の大文豪が訪れた宿でのエピソードです。

■□■ 現代語訳 ■□■

  あなたは、さてどうでしょうね。他人の心は分からないけれど、
 昔なじみのこの里では、梅の花だけがかつてと同じいい香りをた
 だよわせていますよ。

■□■ ことば ■□■

 【人は】
 贈答歌ですので、「人」は直接には相手のことを指していますが、
 後の「ふるさと」と対比した、一般的な「人間」という意味も含
 んでいます。
 【いさ心も知らず】
 「いさ」は下に打消しの語をともなって、「さあどうだろうか、
 …ない」という意味になります。「心も知らず」は「気持ちも分
 からない」という意味ですので、全体では「さあどうだろうか、
 あなたの気持ちも分かったものではない」という意味になります。
 「も」は強意の係助詞です。
 【ふるさとは】
 「ふるさと」には、「古い里」「古くからなじんだ場所」「生ま
 れた土地」「古都」などの意味があり、ここでは「古くから慣れ
 親しんだ場所」という意味になります。
 【花ぞ】
 「花」は普通桜を指しますが、ここでは「梅」です。「人の心」
 と「ふるさとの花」が対置されています。
 【昔の香ににほひける】
 「にほひ」は動詞「にほふ」の連用形で「花が美しく咲く」とい
 う意味です。色彩の華やかさを表してる言葉でしたが、平安時代
 になると視覚だけでなく「香り」といった嗅覚も含まれるように
 なりました。
 
■□■ 作者 ■□■

  紀貫之(きのつらゆき。868?〜945)
 平安時代最大の歌人で、「古今集」の中心的な撰者であり、三十
 六歌仙の一人です。勅撰集には443首選ばれており、定家に次いで
 第2位でもあります。古今集の歌論として有名なひらがなの序文
 「仮名序(かなじょ)」と、我が国最初の日記文学「土佐日記」
 の作者として非常に有名であり、教科書にも取り上げられている
 のはご存じでしょう。
 役人で大内記、土佐守などを歴任し、従五位上・木工権頭(もく
 のごんのかみ)になりました。
 土佐日記は、土佐守の任を終えて都に帰るときの旅の様子を1人
 の女性に託してひらがなで書かれた日記です。

■□■ 鑑賞 ■□■

 さて、この歌は古今集に収められたものですが、詞書に「初瀬に
 詣(まう)づるごとに宿りける人の家に、久しく宿らで、程へて
 後にいたれりければ、かの家の主人(あるじ)、『かく定かにな
 む宿りは在る』と言ひ出して侍(はべ)りければ、そこに立てり
 ける梅の花を折りて詠める」とあります。
  すなわち、昔は初瀬の長谷(はせ)寺へお参りに行くたびに泊
 まっていた宿にしばらく行かなくなっていて、何年も後に訪れて
 みたら、宿の主人が「このように確かに、お宿は昔のままでござ
 いますというのに」(あなたは心変わりされて、ずいぶんおいで
 にならなかったですね)と言った。そこで、その辺りの梅の枝を
 ひとさし折ってこの歌を詠んだ、ということですね。
             ◆◇◆
  あなたの方はどうだったんです? ちゃんとずっと覚えていて
 いただいてたんでしょうかね。昔よく訪れたこの里は、昔ながら
 に梅の良い香りを漂わせていますのに。
             ◆◇◆
  紀貫之は、「土佐日記」で歴史上はじめて日記文学を書いたり、
 古今集を先頭に立って編集し、歌論として有名な「仮名序」を書
 くなど、平安時代を代表する「大文豪」です。
  その彼が久々に訪れた宿。まあ言うなれば、昔なじみだったホ
 テルを久々に訪れた老いた大俳優が支配人から
 「ホテルは昔のままでございますよ。あなたはお変わりになられ
 たようですが」
 などと言われたので、花びんのバラの花を一本抜いて、
 「君も私のことなんて忘れてたんじゃないかね。世間ってものは
 忘れっぽいものさ。花びんのバラはずっと昔のままだけどね」
 なんて小粋に切り返した、といったところでしょうか。この歌に
 紀貫之の機転と粋でダンディな雰囲気を感じてしまうのは、私だ
 けでしょうか。
  もちろん宿の主人が女性で、遠い昔の恋愛を暗示している、と
 考えることもできます。どちらにせよ、紀貫之が世間と人生を語
 る一首といってよいでしょうか。
             ◆◇◆
 この歌の舞台は「初瀬の長谷(はせ)寺」、現在の奈良県櫻井市
 初瀬町の長谷寺です。近鉄大阪線長谷寺駅下車、徒歩で約20分の
 距離です。お寺の中には樹齢100年を越える巨大なしだれ桜があり
 ますが、このメルマガが届く頃にはぎりぎりまだ見られるかもし
 れません。4月下旬からは150株7000本のボタンが咲き誇ります。
  桜井は日本書紀や古事記などによく登場する、文字通りの「ま
 ほろば」です。万葉の歌碑があちこちに点在しており、散策には
 もってこいです。ぜひ一度訪れてみてくださいね。

 

『ちょっと差がつく百人一首講座』バックナンバー一覧へ


せんべい,煎餅,おかき,あられ,おせんべい【長岡京小倉山荘】
京都せんべいおかき専門店【長岡京小倉山荘】TOPへ