ちょっと差がつく百人一首講座/京都のおかき・あられ・おせんべい・和菓子処小倉山荘

『ちょっと差がつく百人一首講座』バックナンバー一覧へ

【2002年5月10日配信】[No.060]
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 【今回の歌】

  有明の つれなく見えし 別れより
   暁(あかつき)ばかり 憂(う)きものはなし

            壬生忠岑(30番) 『古今集』恋・625

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 
  ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたか。5月も中旬に
 入ると暖かさも増し、もう半袖で十分過ごせる一日も増えてきて
 いますね。
  今年は気候の移り変わりが例年より2カ月ほど早いなんて言わ
 れていますので、衣替えも少し早めに考えた方がいいのではない
 でしょうか。
  しかし暖かいと、つい酒場で飲み過ぎてしまって朝近くになっ
 てから帰るなんてこともあるかもしれません。
  帰ると奥さんの怖い顔が待っている。そんな時にはこの歌を思
 い出して…、というのは少し違いますが、中年男の悲哀をぐっと
 感じさせる愁いのある朝帰りの歌をご紹介しましょう。
  
■□■ 現代語訳 ■□■
  
  有明の月は冷ややかでそっけなく見えた。相手の女にも冷たく
 帰りをせかされた。その時から私には、夜明け前の暁ほど憂鬱で
 辛く感じる時はないのだ。
 
■□■ ことば ■□■

 【有明(ありあけ)の】
 十六夜以降、おおむね二十夜以降の、明け方まで空に残っている
 月のことです。
 【つれなく見えし】
 「つれなく」は形容詞「つれなし」の連用形で「冷淡だ」などの
 意味です。そのまま「つれない」で現代でも意味は通じます。
 「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、過去の女との別れを回
 想しています。
 また、月のつれなさと別れた女のつれなさを重ねています。
 【別れより】
 「より」は時間の起点を表す格助詞で、「その時から」という意
 味になり、現在までの時間の経過を表しています。
 【暁(あかつき)ばかり】
 「暁(あかつき)」は夜明け前のまだ暗いうちのことです。「ば
 かり」は後の「なし」と組み合わせて、「〜ほど、〜なものはな
 い」という意味になります。
 【憂(う)きものはなし】
 「憂き」は形容詞「憂し」の連体形で「つらい」「憂鬱な」とい
 う意味です。「夜明け前ほど、憂鬱な時間はない」という意味に
 なります。

■□■ 作者 ■□■

  壬生忠岑(みぶのただみね。生没年未詳)
 9世紀後半から10世紀前半ごろの人で、「古今集」の撰者の一人。
 三十六歌仙の一人でもあります。百人一首41番の作者、壬生忠見
 (みぶのただみ)の父親です。右衛門府生(うえもんのふしょう)、
 御厨子所預(みずしどころのあずかり)などの役を経て、六位摂
 津権大目(せっつごんのだいさかん)にまで出世しました。
  
■□■ 鑑賞 ■□■

  夜明け前の有明の月が西の空に残っている。
  もうすぐ夜明けだ。
  有明の月は、本当に白々と冷たくそっけない。
  逢瀬にと女性の許へ行くと、とても冷たくあしらわれ、追い返
 すような態度をとられた。そんなことがあってから、私には、暁
 ほどつらく憂鬱な時間はないのだよ。
             ◆◇◆
  そこそこの年齢の男性読者の中には、ふうっとため息をつかれ
 た方もおられるのではないでしょうか。しょぼくれた男の哀しさ、
 とでも言いましょうか。
  仕事でくたびれ果てて女性の家へ行ってみたら、もうあなたへ
 の興味は薄れたのよ、他に優しい人ができたの、早いとこ帰って
 といわんばかりの態度。未練がましい態度をとる自分が嫌になる
 し、袖にされて辛いことばかり。外へ出ると夜明けの月までそっ
 ぽを向いているようだった。
             ◆◇◆
  この歌は、今まで紹介してきた恋の歌とは一線を画すものがあ
 ります。相手が冷たくて泣き崩れる女性の歌でもなし、逢瀬を遂
 げた男が相手に夢中になっている歌でもない。
 「癒しの場を求めて得られなかった中年男の背中の歌」なんです
 ね。現代の仕事に疲れた男にも少し通じる感覚で、「袖の濡れて
 乾く間もない」大泣きの歌より、じんわり心にくるものがある秀
 歌です。
             ◆◇◆
  こういう歌のような情景が小説になったら、それはハードボイ
 ルドなどと呼ばれます。ハードボイルドというと、日本では大藪
 春彦の小説で有名になったため、タフな男たちが銃で撃ち合った
 り殴り合う小説だと思いがちです。でも、ハードボイルドの魅力
 は実は、この歌のような「しみじみとした実感」や「やるせなさ」
 にあることが多いのです。
  ハードボイルドの味は若い人には分からない、なんて言います
 が、この歌にも一種そうしたところがあるのかもしれません。
             ◆◇◆
  なお、作者には次のような歌があります。
 「陸奥に ありといふなる 名取川 
   なき名取りては 苦しかりけり」
 (陸奥にあるという名取川だが、無実の中傷をされては苦しいも
 のだ)
  名取川は、宮城県の中央を流れ、「青葉城恋歌」で有名な広瀬
 川と合流して太平洋に注ぐ大きな川です。川を見るならJR東北本
 線・南仙台駅で下車すれば近いですが、観光ならやはり仙台市ま
 で足を伸ばしましょう。
  伊達政宗公の居城・青葉城をはじめ、仙台博物館など見どころ
 が満載ですし、5月18・19日の両日には、伊達・火縄銃鉄砲隊演
 武式やすずめ踊りなどで有名な「青葉祭り」が開かれます。
  ぜひ一度訪れてみて、人生の苦みを忘れてしまいましょう。

 

『ちょっと差がつく百人一首講座』バックナンバー一覧へ


せんべい,煎餅,おかき,あられ,おせんべい【長岡京小倉山荘】
京都せんべいおかき専門店【長岡京小倉山荘】TOPへ