ちょっと差がつく百人一首講座/京都のおかき・あられ・おせんべい・和菓子処小倉山荘

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【2002年8月10日配信】[No.069]
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 【今回の歌】

  住の江の 岸による波 よるさへや
   夢の通ひ路(ぢ) 人目(ひとめ)よくらむ

          藤原敏行朝臣(18番) 『古今集』恋・559

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  8月を迎えました。もうすぐお盆になりますね。
 暑い季節もそろそろ終わり、海へ遊びに行くのも最後になってき
 ました。もうしばらくで海も波が高くなり、冷たくなってきます
 ので、ビーチレジャーには最後のチャンスとばかり、この週末に
 は恋人や奥さんと一緒に海へ出かける方も多いかもしれません。

  ところで、中には一緒にビーチへ出かけたいのだけども、なか
 なかお互い時間がとれなくて、逢うことすらかなわない、なんて
 カップルもいるかもしれません。
  そんな恋人どうしなら、お互いの夢の中で逢うしかないかも。
  平安時代には「夢」というと、恋人たちには特別の意味を持っ
 ていました。今回はそんな夢の話をしましょう。
  
 ■□■ 現代語訳 ■□■
  
  住之江の岸に寄せる波の「寄る」という言葉ではないけれど、
 夜でさえ、夢の中で私のもとへ通う道でさえ、どうしてあなたは
 こんなに人目を避けて出てきてくれないのでしょうか。
 
 ■□■ ことば ■□■

 【住の江の】
 「住の江」は、摂津国住吉(せっつのくにすみよし=現在の大阪
 府大阪市住吉区)の海岸のことです。
 【岸による波】
 「よる」は「寄せてくる」という意味です。ここまでが「寄る」
 と同音の「夜」を導きだす序詞になります。
 【夜さへや】
 「さへ」は、すでにある事実に、さらに他の事実が加わり、「…
 までも」という意味になります。「や」は疑問の意味を表す係助
 詞で、全体で「(昼間ならともかく)夜までも…するのか」とい
 う意味です。
 【夢の通ひ路(ぢ)】
 「夢の中で女性のもとに通っていく道すがら」という意味です。
 現実の話ではなく、夢の中での話です。
 【人目(ひとめ)よくらむ】
 「人目(ひとめ)」は「他人の見る目」のことです。「よく」は
 「避ける」という意味の下二段動詞の終止形。「らむ」は原因や
 理由を推量する助動詞の連体形で、「夜さへや」の係助詞「や」
 の結びとなります。全体で「他人の目を避けてしまうのだろう」
 という意味になります。

 ■□■ 作者 ■□■

  藤原敏行朝臣(ふじわらのとしゆきあそん。生年不詳〜901)
 陸奥出羽(むつでわ)の按察使(あぜち=巡察官)富士麿(ふじ
 まろ)の息子で、従四位上、右兵衛督(うひょうえのかみ)まで
 昇進しました。書が上手く、「小野道風(おののとうふう)は空
 海と並ぶ書家と褒めた」という伝説が残っています。奥さんは在
 原業平の義理の妹です。
  
 ■□■ 鑑賞 ■□■

  あの住之江の岸に寄せる波の「よる」ではないけれど、人目が
 気になる夜でもないのに、ましてや現実ではないのに。
  どうして夢の中でさえ、私に逢いに来るのに人目を避けて出て
 きていただけないのでしょう。
  私への想いなんて、ひとつもないのでしょうか。
             ◆◇◆
  平安時代の貴族たちにとって、夢には特別の意味がありました。
  自分の見た夢で吉凶を占うことも普通に行われていましたが、
 何より恋する相手が自分の夢の中にたくさん出てくるほど、相手
 が自分のことを好きなのだ、と思われていたのです。
  要するに、夢は恋の深さを調べるバロメーターだったわけです。
  きっと中には、
 「あなた、私のこと嫌いになったでしょ!」
 「そんなことないよ、ずっと変わらず愛してるよ」
 「ウソよ! だって最近私の夢の中に全然出てこないじゃない!」
 なんて冗談のような痴話喧嘩もあったかもしれませんね。
  逆に何とも思っていなかった女性から、「私の夢によくお現れ
 になるんですのよ」なんて言われて、「そうか、それなら私はあ
 の女性のことが好きだったのか」と思い、そこから恋がはじまる
 こともあるかもしれません。
  慣習というのは不思議なものですね。
             ◆◇◆
  まあ、それは半分冗談ですが、何といっても人目を忍ぶ恋とい
 うのは不安なものです。平安時代は、男性が女性の家へ通う通い
 婚が慣習でした。男性が見限ってしまうと、もう女性の家へはや
 って来なくなります。
  当然女性は、いつ自分が捨てられるかもしれないという、不安
 な心境にさいなまれていたわけです。
  自分の好きな人が、最近夢に全然現れなくなった。あの人はも
 う私のことなんて忘れてしまったんじゃないかしら。忍ぶ恋のつ
 らさがひしひしと感じられる歌でもあります。
  また、人目を忍ぶ恋こそが醍醐味だなんて声もあるかもしれま
 せんね。「あたしがこんなに愛してるのに、どうしてあなたは夢
 にも出てきてくれないの。気の弱い人ね」なんてかわいい嫉妬を
 描いたものだ、なんて現代風な解釈も成り立つかも。
  作者の藤原敏行は男性ですが、歌合せでこんな歌を詠んで人気
 になるほど、平安時代の貴族たちは恋を楽しんだ、ということで
 しょう。
             ◆◇◆
  藤原敏行は、この歌の他に非常に有名な歌を詠んでいます。
  古今集に収録され、誰でも知っている歌ですが、藤原敏行の名
 前はあまり知られていません。ちょうど8月の中旬で時期的にも
 合った名歌ですので、敏行の名も記憶しておいてくださいね。

  秋来ぬと 目にはさやかに見えねども 風の音にぞ驚かれぬる

             ◆◇◆
  さて、歌の舞台となった「住之江」は、現在の大阪府大阪市住
 吉区の近くの海辺です。現在の住之江区はその隣になります。
  住吉の海岸は平安時代には松の林が続く砂浜だったようですが、
 現在では埋め立て地になっています。
  住吉区でどこか訪れるとすれば、住吉大社はいかがでしょうか。
  電車の場合は、なんば駅から南海本線住吉大社駅下車すぐ、ま
 た阪堺本線住吉鳥居前駅下車すぐの場所にあります。
  住吉大社は初詣の人数が全国3位の大神社で、正面の池にかか
 る大きく反り返った太鼓橋が有名です。大阪人には「住吉さん」
 と親しまれる神社。大阪観光にもってこいのスポットですし、ま
 たかわいい市電である阪堺線に乗ると、電車に揺られながら大阪
 の下町の風情を眺めることができます。一度お参りに詣でられて
 はいかがでしょうか。

 

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