【2001年9月10日配信】[No.036]
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【今回の歌】
あしびきの 山鳥(やまどり)の尾の しだり尾の
長々し夜を ひとりかも寝む
柿本人麿(3番) 『拾遺集』恋3・773
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9月になりました。秋の到来です。
秋といえば、虫の声の響く長い長い秋の夜長。気候も良いので
読書などをしてひとりじっくり思索してみるのに最適な季節で
す。けれど、届かぬ恋をしてひとり思い悩むなら、秋の夜長は
永遠と思えるほどさびしい時間かもしれません。
そんな独り寝の寂しさを、山鳥の長い尾で表現し、ダイナミ
ックに音を楽しむ歌が、今回紹介する一首です。
■□■ 現代語訳 ■□■
山鳥の尾の、長く長く垂れ下がった尾っぽのように長い夜を
(想い人にも逢えないで)独りさびしく寝ることだろうか。
■□■ ことば ■□■
【あしびきの】
山に関係した言葉にかかる枕詞で、ここでは「山鳥」にかか
っています。
【山鳥の尾の】
「山鳥」はキジ科の鳥で雄の尾が非常に長いと言われます。そ
のため「長いこと」を表す時に使われます。「の」は連体格助
詞で「…で」や「…であって」の意味です。全体で「山鳥の尾
であって」のような意味になります。
【しだり尾の】
「しだる」は「下に垂れる」という意味の動詞で、連用形「し
だり」に「尾」が付いた名詞です。「の」は「のような」の意
味の格助詞で「下に垂れる尾のような」の意味。最初からここ
までが、「長々し夜」を導き出す序詞になります。
【長々し夜を】
長い長い夜のこと。「長し」を重ねることで強調しています。
【ひとりかも寝む】
「(逢いたい人にも逢えないで)ひとり(寂しく)寝ることで
だろうかなあ」という意味。「ひとり」は名詞ではなく、「ひ
とりで」という意味の副詞です。「か」は疑問の係助詞、「も」
は強意の係助詞、「む」は推量の助動詞です。
■□■ 作者 ■□■
柿本人麿(かきのもとひとまろ。不明〜709?)
持統天皇の頃の宮廷歌人で、三十六歌仙の一人。下級官吏で710
年ごろに石見国(現在の島根県益田市)で死んだといわれます。
万葉集の代表的歌人の一人で、長歌20首、短歌75首が収められて
います。
■□■ 鑑賞 ■□■
秋の夜は長い。長くて長くて時間を持て余す。考えるのは、あ
の日出会った美しいあなたのこと。いったいあなたは今ごろ何を
考えているのだろう。他の誰かと閨をともにしているんじゃない
だろうか。夜は長く、いつまでも明けない。長〜い長〜い、山鳥
の雄のように長い夜。今夜もひとり寂しく眠るのだろうか。
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「秋の夜長」はずいぶん昔から日本人の共通概念だったようで
す。万葉の昔からすでにこんな歌があったのですね。秋の夜長を
表すのによく使われる恋歌です。
山鳥は日本の山にいる野鳥ですが、雄の尻尾が長いので、「長
い」ことを表すのに使われます。また山鳥は、昼は雄雌一緒にい
て、夜は別々に分かれて峰を隔てて眠るという伝承があるので、
ひとり寝を表す時にも使われます。
つれない異性を想って一人過ごす夜の長いこと。また、秋は気
候がだんだん涼しくなってくるので寂しさがいっそうつのるので
しょう。
そういえばこの歌は、上の句すべてが「長々し」にかかる序詞
になっています。この序詞もまたとっても長いもので、歌にひっ
かけてあるのかもしれません。「山鳥の尾の しだり尾の」と語
尾を合わせることで、音感の面白さも特筆される印象深い名歌で
す。
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この歌の作者、柿本人麿は、705年ごろに石見の国司として赴任
し、そこで亡くなったといわれています。石見の国は現在の島根
県の西の端、益田市にあります。
益田市は、中世の豪族益田氏の本拠となったところ。山陰の小
京都として有名な津和野町に隣接し、史跡や名所が数多く残され
ています。
柿本人麿ゆかりの柿本神社があるのはJR益田駅の西ですが、近
辺には雪舟の郷記念館や雪舟庭園(万福寺)、県立万葉公園など
もあります。津和野なども一緒に訪れれば、いい旅になることう
けあいでしょう。
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