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 【平安の物語】大納言の娘と内舎人――身分を越えた恋物語

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      │ ■ 〜まえがき〜身分の差を越えた恋の物語            │
      │ ■ 身の程をわきまえぬ一目惚れ♪                    │
      │ ■ どうせ恋の病に死ぬ運命ならば……                │
      │ ■ 思う恋から尽くす恋へ                            │
      │ ■ 山の井に映る我が姿――悲しき栄華のあしあと      │
      │ ■ あさくは人を思うものかは……                    │
      └──────────────────────────┘
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■ 〜まえがき〜身分の差を越えた恋の物語
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    映画や小説には、身分を越えた恋愛がよく描かれます。

    近くはジェームズ・キャメロンの『タイタニック』がそうでした。ジ
    ャックとローズの身分を越えた悲恋物語は、カゴの中の鳥でしかなか
    ったローズが、ジャックとのつかの間の出会いによってカゴから飛び
    出し、その後自由な人生を生きぬいたことがラストで示唆されていま
    す。これは一種のハッピーエンドと言ってよいかと思います。

    しかし、なかなか映画のようにうまくはいかないのが現実というもの。
    平安時代にも、身分を越えた恋愛に果敢にトライした男女がいました。
    今回はそんな恋物語をご紹介!――果たして二人の恋のシナリオに待
    つラストシーンは、ハッピーエンドかそれとも地獄か!?

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■ 身の程をわきまえぬ一目惚れ♪
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    ヒロインは時の大納言の娘。
    顔のつくりは端正で、居住まいはしなやか、それはそれは麗しい姫君
    がいました。父大納言は、我が子ながらあまりに美しいので、行く末
    を大いに期待し、ゆくゆくは天皇に奉ろうと日々養育していました。

    この大納言邸に使われるひとりの従者がいました。
    「内舎人(うどねり)」という奉公人のような身分の若者でしたが、こ
    の男があるときふと、姫君の姿をかいま見てしまったことから物語は
    スタート!!――姫君の容姿の麗しさ。この世の者とは思われぬ何とも
    言えない甘ぁ〜い雰囲気。

    内舎人は一瞬にして恋に落ちてしまったのでした。

    それからというもの、内舎人は来る日も来る日も姫君のことばかり考
    えるようになりました。食事も喉を通らず、次第に痩せ衰えて、やが
    て彼は恋の病のために「余命幾ばくも無し」というところまで思い悩
    んでしまったのです……。

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■ どうせ恋の病に死ぬ運命ならば……
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    死が近いことを悟った内舎人が、「どうせこのまま思い悩んでいても
    死ぬ運命。同じ死ぬならいっそ――」と思い至ったのは当然のなりゆ
    きだったでしょう。

    と言っても、彼はこの時、なにも大それたことを思い立ったわけでは
    ありません。死ぬ前に一度、どうにかして恋する姫君に自分の存在と
    気持ちを知ってもらいたかったのです。

  ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ◆ 内舎人 「極めて大事なお知らせがあります!危急の用件です!!姫
                様に直接お会いして申し上げたいのですが――」
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    ◇ 侍  女 「このような夜更けに、危急の用件とはなんじゃ」
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    ◆ 内舎人 「内密の用件です。私は長年このお屋敷に使えてきた者で
                す。ご心配には及びません。さぁ、急いでお取り次ぎを」
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    侍女は不審に思いながらも、内舎人の申し出をそのまま姫君に伝えた。
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    ◇ 侍  女 「内舎人がかくかくしかじかと申しております」
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    ◇ 姫  君 「何事じゃ。長年我が家に仕える者であれば心配はあるま
                い。みずから聞こうぞ」
  ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

    姫君はこうして妻戸の近くまで出てきました。
    内舎人の心にフッと邪な考えが浮かんだのはこの時です。いざ憧れの
    姫君を目の前にしてみると、彼は恋の本望を遂げずにはいられない衝
    動に駆られました。次の瞬間、内舎人は御簾の内へ乗り込み、姫君を
    奪って、夜陰の中をどこへともなく消えていったのでした。

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■ 思う恋から尽くす恋へ
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    追っ手を恐れた内舎人は、姫君を馬に乗せ、ごく親しい従者を 2人引
    き連れて遠い遠い陸奥国へ向かいました。たとえ都から離れていても
    里で暮らしては危険だ、という思いから、安積山(あさかやま)の山林
    の中に小屋を建て、姫君を大切に大切に据えて暮らし始めました。

    もともと温室育ちのお姫様。強引に田舎へ連れてこられた怒りが収ま
    らぬまま、毎日毎日、「あれが食べたい」「これを所望じゃ」とわが
    ままを言っては内舎人を困らせました。しかしその度に彼は、愛する
    姫君の希望に答えるのが楽しみとばかりに、一生懸命に尽くしました。

    数日に一度、里へ降りて食料を調達してくるばかりではありません。
    みずから慣れぬ狩りをしたり、時には冬の冷たい川に足を突っ込み、
    魚を漁ったりもしました。なにかと不便が多い田舎の山暮らしでも、
    姫君に喜んでほしい、笑って暮らしてほしい――それだけが内舎人の
    純な望みだったのです。

    やがて彼の思いは通じました。
    姫君はようやく夫として認めてくれ、笑顔を見せてくれるまで信頼さ
    れるようになりました。年月を経て、姫君はとうとう懐妊し、これか
    らますます幸せな日々が訪れると思われました――。

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■ 山の井に映る我が姿――悲しき栄華のあしあと
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    ある時、夫が食料を調達するため山を下り、四五日帰らないことがあ
    りました。姫君は心細く、淋しくて居ても立ってもいられず、滅多に
    出歩かない外へ出て、山の中をうろうろと歩き回りました。

    しばらく歩くと、水が湧いている小さな泉があります。彼女は何気な
    く澄んだ水面を覗き込んでみました。そこには、安積山の山の緑が美
    しく映っています。そして同時に彼女は、世にも恐ろしげな人間の姿
    をそこに見いだしてしまったのです。

    ざんばら髪にぼろぼろの衣装。手入れもしない眉にすすけた肌――。
    山姥に見まがうその人物とは、紛れもなく、彼女自身の姿だったので
    した。幼いころから回りの大人たちにかしずかれ、愛でられ、華やか
    な衣装をまとっていた生活がふと蘇ってきて、彼女は恥ずかしさでい
    っぱいになりました。

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■ あさくは人を思うものかは……
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    彼女はそばにあった木に、すかさずこう書き付けました。

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       │あさか山かげさへ見ゆる山の井の浅くは人を思ふものかは│
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       ┌              安積山を映す浅い山の井は              ┐
       │              醜く落ちぶれた私の姿まで              │
       │        こんなにも鮮やかに映し出してしまった        │
       │                                                    │
       │                 私はあなたに対して                 │
       │       決してこの浅い山の井のような浅い思いを       │
       └           抱いているのではありません……           ┘ 


    これが大納言の娘として生まれ、のちに山姥のような生活を送り、波
    瀾の人生を生きた女性の辞世の句となったのでした。彼女自身は、身
    分の低い夫の思いをようやく受け入れることができ、幸せな生活を勝
    ち得ながらも、しかし生まれながらの高貴の血が決してそのような浅
    ましい生き方を許さなかったのでした……。

    翌日――。
     2人の従者が泉のほとりで冷たくなったあるじを発見しました。
    ただし、発見された遺体は 1体ではありません。恥ずかしさのあまり
    悶死した姫君のすぐ隣には、夫である内舎人の亡きがらが、あたかも
    生きているように涙を流しながら、ぴったりと寄り添っていたという
    ことです。


                            原話『大和物語』ほか 脚色 江幡 (70%)

 

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