【平安の物語】貧しさに負けた!!平安・悲しき恋の物がたり
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│ ■ 貧しさに負けた!!愛し合う二人の悲しき別れ │
│ ■ 明暗を分けた二人の運命――天国と地獄「天国編」 │
│ ■ 明暗を分けた二人の運命――天国と地獄「地獄編」 │
│ ■ 数年ぶりの再会!――別れた二人の数奇な運命 │
│ ■ 別れが導いた運命――そして再び永遠の別れ │
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■ 貧しさに負けた!!愛し合う二人の悲しき別れ
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「別れよう」
そう切り出したのは夫のほうでした。身よりもなく、貧しく、暮らし
向きが一向に良くならないことを憂えた夫が、考えに考え抜いて出し
た結論でした。時は平安時代。京の都に住むある貧しい夫婦の、悲し
い別れの瞬間です。
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◆ 夫 「生きているかぎりは死ぬまで一緒に添うつもりであった
が、日に日に貧しさばかりがまさってゆくのは、もしや
二人が一緒にいるのが悪いのかも知れないと、そう思う
のだ……」
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◇ 妻 「私はそのようなこと、思ったこともありません。共に飢
え死にする覚悟です。でもあなたの仰る通り、暮らし向
きが良くならないは二人が添うているのが悪いのかも知
れません。別れてみればすこしは良くなるのかも……」
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相思相愛の夫婦が目の前の貧困を生き抜くために選んだ最後の策は、
悲しいと言えばあまりに悲しい、哀れと言えばあまりに哀れな「別れ」
という選択でした。ここからが悲しい運命の物語の始まりです。
■ 明暗を分けた二人の運命――天国と地獄「天国編」
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女はまだ若く、美しく、風流な心ばえの持ち主だったので、夫と別れ
たあと首尾よくさる貴族の家に仕える身となりました。貴族は女の見
事な心ばえを知ってたいそう可愛がりましたが、折しも北の方が亡く
なったため、やがて女を正式な妻として迎えることになりました。
別れてからの女の人生は、まさに栄光への階段を駆けのぼるシンデレ
ラストーリー♪あれよあれよという間に上流階級の仲間入り♪しかも
貴族である新しい夫はめでたく摂津守に任命されお仕事も順分満帆♪
やがて女は国守の妻として夫と共に摂津国へ赴くことになりました。
■ 明暗を分けた二人の運命――天国と地獄「地獄編」
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一方別れた夫の方はというと、よく出来た妻と離れてさらに貧しさが
募り、貧困の中でもなんとか暮らしてこられたのは妻のおかげだった
と気づいた時にはすでに遅し!そのうち都にもいられない身分となり
果て、宛てもなくふらふらと都を落ちてゆきました。
たどり着いた摂津国で、男は日雇いの仕事にありつきましたが、田畑
づくりをやらせても木こりをやらせても、慣れない手つきでうまくゆ
きません。雇い主は仕方なく、難波の浦へ行って葦を刈りとってこい
と、誰にでもできそうで誰もが嫌がる仕事を命じたのでした。
■ 数年ぶりの再会!――別れた二人の数奇な運命
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新しい摂津守は、入国すると難波あたりで車を留め、風光明媚な景色
を肴に宴会を開いてドンチャン騒ぎを始めました。一緒に連れてきた
北の方は車に残り、女房たちと一緒に景色を眺めて楽しんでいました
が、ふと見ると、葦を刈る男たちの中に見覚えのある顔があります。
「あッ!あれはまさしくあの人――!!」
そう、北の方は思いがけぬところで、旧夫の姿を見いだしたのでした。
北の方の瞳はみるみる潤みはじめました。その湧いてくる涙があふれ
ぬように気づかいながら、さりげなく使いの者を呼び、男を召してく
るように命じました。
使いの者がゆくと、別れた夫は驚きあわて、おろおろしながら近づい
てきます。どす黒く焼けた肌。よれよれの衣。隆々と盛り上がる筋肉。
ふくらはぎにはヒルが吸いつき、血がしたたり流れています。都暮ら
しのころとは似ても似つかぬ旧夫の姿に、北の方は憐れみの目を向け
ずにはいられませんでした。
■ 別れが導いた運命――そして再び永遠の別れ
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北の方は男に酒を飲ませ食べ物をとらせました。そして紙の切れ端に
こうしたためて、上等な衣に添えて与えました。
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│あしからじと思ひてこそは別れしかなどか難波の浦にしもすむ│
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┌ そうすれば悪くならないのではと ┐
│ 二人で悲しい別れを決めたはずなのに │
│ │
│ 二人の愛を犠牲にしてまで │
│ 求めたはずの幸せだったのに │
│ │
│ どうしてあなたはこの難波の浦で │
└ 葦刈りなどをして暮らしているの…… ┘
男はこのとき、初めて目の前の貴人が別れた妻だと悟ったのです。
このような形で再会するなど、思いもよらない男は、運命の悪戯を恨
むやら情けないやら恥ずかしいやら、顔もあげられぬまま硯を借りて
こう返歌をしたためました。
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│君なくてあしかりけりと思ふにはいとゞ難波の浦ぞすみうき│
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┌ あなたと別れてはやはり良くなかったのだと ┐
│ そう後悔ばかりするにつけて │
│ │
│ あなたを失って得る幸せなど │
│ あるはずがないとも気づかずに │
│ │
│ たどり着いたこの難波の浦で │
└ 葦を刈って住むことなどできそうにありません ┘
これを見て北の方は胸を裂かれるような気持ちになり、ついに止めど
なくあふれる涙をどうしようもできなくなりましたが、男はさよなら
も言わずに、ただ黙っていずこへともなく走り去ったのでした。
別れによって明暗を分けた二人の運命。皮肉にも、はじめに別れを切
り出した夫のほうが長い地獄をさまよう形になりました。しかし、彼
の決断は決して誤っていたわけではありません。なぜなら貧しさから
逃れるための決断が、愛する妻を確かに幸せな境遇へと導いたのです。
北の方はその後の長い人生を、常に運命のはかなさを思いつづけて生
きたことでしょう。その証拠に、この話は彼女が年老いて摂津守が亡
くなったあと、初めて他人にうち明けたのだということです。
原話『今昔物語集』『大和物語』ほか 脚色 江幡 (60%)
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