【平安の物語】夢を買った男の話。
歴史の教科書にも出てくる吉備真備(きびのまきび)という奈良時代の学者は、
遣唐使として唐にわたったとき、そのあまりの才能に恥じた唐人が
彼を殺そうとしたという逸話が残るほどの大天才でした。
彼については多くの伝説が残っています。
真備は地方の郡司の息子で、中央政界から見ると身分の低い家柄の出でした。
あるとき、夢を見たので夢占いの女のもとへゆくと、
国司の御曹子がきらびやかな衣装をまとって同じく夢占いに来ていました。
真備は隠れて御曹子の占いに聞き耳をたてていると──。
◇御曹子「これこれこういう夢を見たのだがどのような意味があるのじゃ?」
□占い女「なんとまあ、すばらしい夢でございます!
あなた様は必ずや大臣までご出世なさることでしょう!!」
これを聞いて、御曹子は嬉しそうに帰ってゆきました。
その後真備は占い女に詰め寄り、
◆真備 「あの者は国司の息子じゃ。いずれ都へ戻るであろう。
わしはしがない郡司の息子。都での出世など夢のまた夢じゃ。
なんとかあの者が見た夢をわしにゆずってくれぬであろうか?」
□占い女「仰せごもっともでございます。
それならば、あの若者が話した夢の内容を
つゆたがわずに私にお話しくださいませ」
真備は女が言うとおりに御曹子の夢をまるで自分が見たように語りました。
そして女にたくさんの褒美を与えて帰りました。
その日から真備は、書物を一度読んだだけで
全文をそらんじることができるようになり、次々に書物を読んで、
あっと言う間に学者として名を馳せるようになりました。
その才を中央からも認められて遣唐使に選ばれ、
唐土でたくさんの知識を詰め込んで帰ってくると、
とんとん拍子で出世し、15年後ついに右大臣のポストにおさまりました。
かの夢を買われた国司の御曹子は、生涯泣かず飛ばずだったと言います。
──この話はもちろん作り話ですが、当時、血統で出世が決まる中央政界に
地方豪族の息子が己の才覚ひとつで殴り込みをかけ、
ついには位人臣を極めた事実は、当時の地方の人たちによって
まさに「夢物語」として熱く語られたことでしょう。
脚色 江幡店長 出典『宇治拾遺物語』
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