【平安の物語】播磨國の陰陽師・智徳法師の秘術。
むかし、西国からたくさんの財を積んだ船が京へ上る途中のこと。
播磨國の明石あたりで、にわかに現れた海賊に襲われ、
海へ飛び込んで逃げた2人を除いて船員ことごとく殺されてしまいました。
2人はどうにか陸まで泳ぎ着き、命こそ助かりましたが、
財は奪われ、仲間もみな殺しにされた悔しさに、声をあげて泣き崩れました。
そこへ通りかかった老人が一人──。
◆老人「これこれ、いかがいたしたのじゃ?」
◇船員「海賊に襲われて宝を奪われました。
仲間も皆殺しにされ、私たちだけ命を長らえましたが、
何もかも失ってしまい、泣くほかはございません」
◆老人「おお、これはあわれじゃ。わしが海賊めを捕まえてやろう」
老人のその言葉を真に受けるほど、船員は馬鹿正直ではありませんでしたが、
弱り切った今の2人にとってその気づかいが嬉しく、
「ありがとうございます」と声をそろえて答えました。
◆老人「では、海賊に襲われた場所に案内してくれい」
老人があくまで大まじめに言うので、2人は怪訝に思いながらも
小舟を借りて海へ漕ぎだしました。
その場所まで来ると、老人は海面になにやら文字を書き、
呪文のようなものを唱えて「あとは待つばかりじゃ」と言いました。
そうして陸で待つこと7日。
どこからともなく海賊船が岸へたどり着きました。
陸では土地の屈強な男たちが、手に手に武器を持って身がまえていましたが、
海賊たちは酔ったようにうつろな目をしてみなぼーっと立ちつくしています。
陸の男たちは船に乗り込み、なんの抵抗も受けずに
奪われた財を運び出しました。
2人の船員は老人の秘術の力を思い知り、抱き合って喜びました。
◆老人「うぬら、今日のところは赦して遣わすが、
ふたたびこのような悪事をいたせば命はないと思え!
播磨國にこの智徳法師がおることをゆめ忘れるでないぞ!!」
老人が目を怒らせ、雷のような声で怒鳴りつけたので、
海賊たちはほうほうの体で逃げ去ってゆきました。
この智徳法師こそ、のちに安倍晴明に術くらべを挑んで敗れ、
その弟子となって後世に名を残した陰陽師です。
脚色 江幡店長 出典『宇治拾遺物語』
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