【平安の物語】ばくち打ちが息子の人生を賭ける話
むかし、たいそう醜い息子をもつ、ばくち打ちの両親がいました。
現代よりも見た目がはるかに重要視された平安の世だけあって、
両親はわが子がいつ結婚できるのかと、毎日不安な日々を送っていました。
そのころ近くの大富豪の家に珠のように美しい年頃の娘があり、
ある日、「顔の美しい好青年を当家の婿にもらいたい」と、
娘の結婚相手をひろく募りました。
醜い息子をもった両親は、ばくち打ちらしく
「ここが賭けどころぞ!!」と思い定め、
「うちの息子こそ天下の美男子でございます」と結婚を申し入れました。
大富豪の家ではこれをよろこび、すぐに日取りが決まりました。
結婚当日まで相手の顔を知らないことも珍しくない昔のこと、
ばくちうちの二人は息子の顔がわからぬようにうまく事を運び、
ついに婿入り当日まで隠し仰せました。
初夜。
新郎と新婦が寝所へ入ったころ、「ドンドンドン」と天井を踏む音がします。
そして世にも恐ろしげな声でこう問いかける声が聞こえてきました。
◇天井の声「おのれは天下の美男子と言われているそうだが、本当か?」
騒ぎを聞きつけ、家じゅうの者が寝所へ集まってきました。
◆新 郎「な…何者じゃ!!俺はたしかに天下の美男子と言われておるぞ!!」
◇天井の声「わしは鬼じゃ。この家の娘はわしのものである。
それを横取りしようと申す者には、天罰を下さねばなるまい。
おのれは命とその美しい顔と、どちらが惜しいか?」
新郎が返答に迷うと、新婦の両親は「命より大切なものはございますまい!!」
と泣きながら言うので、新郎は天井の鬼へ向かって
「この美しい顔などどうなっても惜しくはない!!」と怒鳴りつけました。
鬼は一度笑い、足音をたててどこかへ去ってゆきました。
このとき新婦の両親は新郎の顔に灯りを近づけ、
はじめて婿の顔を見たのでした。その、世にも醜い顔に一同絶句──。
◆新 郎「あぁ、鬼のものであった女のもとに婿入りしたために、
こんなにも醜い顔にされてしまった!
このような顔になってはもはや生きてはおれぬ!!」
新郎が思いつめて死のうとするのを、新婦の両親はあわれに思い、
また申し訳なく思い、なんとかなだめて、
ついにはもとのとおり婿として迎え入れることになりました。
後日、醜い息子がようやく良縁に恵まれ、
ホッと一安心したばくち打ちの両親の家に、こんな来訪者がありました。
○来訪者「親分、このたびの賭けは見事に仕上げられましたねぇ。
あっしの脅しもなかなかのもんでございましたろう?」
その声はまさに、あの新婚初夜に天井から響いた恐ろしげな声と同じでした。
脚色 江幡店長 出典『宇治拾遺物語』
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