京都せんべいおかき専門店【長岡京小倉山荘】今昔物語集 宇治拾遺物語 古今著聞集 古本説話集 〜平安の物語〜

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 【平安の物語】すれ違いに終わる恋。再会に終わる命。

  むかし藤原師家(もろいえ)という貴族に、
  互いに深く想い合った、美しくつつましい女性がいました。

  師家は心からその女性を愛おしく思い、足しげく通っては
  なにかと心を砕いて接していましたが、
  公の仕事が忙しく、しばらく会えない時期がつづきました。

  ――女性にとっては初めての恋だったのでしょう。
  師家の足が一時遠のくと、男とはそういうものだと思い切れずに、
  淋しさが高じてかえって不快の念を強くしてゆきました。

  師家が来てもわざと冷たい態度をとったり。会わずに追い返したり。
  男は男でそれが面白くなく、さらに足が遠のいてゆく。
  ほんのわずかなすれ違いが、二人の仲を徐々に裂いていったのです。

  やがて亀裂は修復不可能となり、
  互いに深く想いを寄せ合う二人は特に嫌い合ったわけでもないのに、
  いつしか交際が途絶えてしまったのでした。

  ――半年後。

  師家がたまたまこの女性の家の前を通りかかったときのことです。
  突如、頭に女性の姿が思い浮かんだので立ち寄ってみる気になりました。
  門を入り、声をかけるとすぐに例の女性が出てきました。

  女は眼差しを落として、法華経を読みながら姿を現しました。
  すこしやつれた顔にはかつては無かった艶めかしさが加わり、
  秀でた眉や額も、涼しげな目も、えもいわれぬ美しさを湛えています。

  ◆師家(こ、これほどの女であったか……)

  師家は刹那にこれまで交際が絶えていたことを反省し、
  今度こそはどんなことがあってもこの女を大切にしてゆこう、
  幸せにできなければどんな天罰が当たっても構わない!と思い定めました。

  ◆師家「ところで貴女はいつまでそうして法華経を読んでいるのです?
          尼さんごっこがご趣味でしたか?
          さあ、さあ、話をしましょう!つもる話もありますから」

  ◇女  「……此於命終、即安楽世界……」
        (……ここにおいていのちおわる、すなわちあんらくのせかい……)

  法華経がその段まで来ると、女ははらはらと涙を落とし、
  長いまつげを開いて初めて師家を見上げました。
  その深い深い悲しみに沈んだ瞳を向けられた瞬間――。

  師家の背筋をビクリと冷たいものが奔りました。
  男ははたと悟ったのです。女の苦しみがどれほど大きなものであったかを…。
  女は読経をやめ、静かに口をひらきました。

  ◇女  「今一度お顔を見たいと思って、今日ここにお呼びしてしまいました。
          最後に貴方と会うことができて、本当に本当に嬉しいのです……」

  そう力なく頬笑んだ女は、ガクリとその場に崩れてしまいました。
  女はすでに、息絶えていました……。


  苦悩から解放されるという経文を読んでも、忘れることのできなかった人。

  その愛する人に会いたいという激しい想いひとすじに、
  病の身を今日まで生きながらえてきた女の生涯とは、
  あまりに細くはかない露のような命でした。


                                    脚色  江幡店長  出典『今昔物語集』

 

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