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 【平安の物語】魂の一首天に通ず!!国守を動かした名歌物語

       ┌──────────────────────────┐
       │ ■ 〜まえがき〜 歌の名手も公務員?                 │
       │ ■ 新しい妻にうつつをぬかす侍                      │
       │ ■ 非道な夫のさらなる非道なしうち                  │
       │ ■ 失意のうちに詠んだ一首・伝わらないこころ        │
       │ ■ 魂の一首・伝わるこころ                          │
       └──────────────────────────┘
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■ 〜まえがき〜 歌の名手も公務員?
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  「貴族」というとどうしてもきらびやかな衣裳や風雅な遊び、恋の歌ばか
  りを詠んで暮らしていたような人たちと想像しがちですが、それは文献な
  どに見られる彼らの顔の一面に過ぎません。

  彼らの本業はあくまで公務員としてのお仕事。
  蹴鞠や歌会ばかりでなく、ちゃんと仕事もしていたんですよ!名のある和
  歌集に登場するほどの歌の名手も、決して歌を詠むことそのものが仕事だ
  ったわけではありません。

  今回は中古三十六歌仙の一人に数えられ、歌・詩の名手として知られる、

  源  道済  (みなもとのみちなり)

  というお方が、国司として下った筑前国である悲しい事件に遭遇した際の
  お話です。はたして風雅な歌を詠む歌人を烈火のごとく怒らせた事件とは?
  そして彼が国守としてとった裁断とは?

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■ 新しい妻にうつつをぬかす侍
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  源道済が筑前国へ下るとき、都からつきしたがった従者の中に、一人の侍
  (さぶらい)がいました。ここで言う「さぶらい」とは武士のことではなく、
  貴人に仕えた人のことです。

  彼は都から妻を連れて下りましたが、任国の筑前に着くとほどなく新しい
  妻を設けて、もとの妻をすっかり顧みなくなってしまいました。

  愛する人に棄てられた悲しさ。
  身よりもない遠国での生活の心細さ。
  そして一人の男を信じ切って付いてきてしまった我が身への後悔。

  もとの妻は辛い気持ちを抑えながら、泣く泣く夫にこう手紙をしたためて、
  たった一人の従者である女の童に持たせて送りました。

「以前のように一緒に住んでほしいなどとは申しません。ただ、私は身より
  もなく、明日の糧にも困るありさま……。せめて貴方から誰かに申しつけ
  て、私を都へ帰すよう手配してはいただけませんでしょうか?」

  この時、もとの妻にとって一番辛かったことは、自分を棄てた夫に最後ま
  ですがるほかに生きる手だてがなかったことだったかも知れません……。

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■ 非道な夫のさらなる非道なしうち
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  もとの妻が悲しみと屈辱に震える手でしたためた手紙を見ても、夫は完全
  に無視を通しました。それどころか、たびたび送られてくる手紙に一切目
  を通さなくなってしまいました。

  もとの妻ははじめ衣裳や小物などを売ってどうにか生計をたてていました
  が、夫からの返事も援助もないうちにだんだん生活が苦しくなってきて、
  ついに病の床に伏せってしまいました。

  遠い異国の地でひとりきり。
  年端の行かない女の童には、生活をやりくりする才覚もなし。

  体を動かすことすらできなくなってしまったもとの妻の心細さはいかばか
  り――流しに流した涙はもはや枯れ果て、今はただ、都をはるか遠く離れ
  た旅の空で、刻一刻と迫る死をぼんやりと待つ人でした。

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■ 失意のうちに詠んだ一首・伝わらないこころ
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  女の童は何度もあるじと侍の間を往復しました。
  幼いながらも、あるじの病の深刻さを肌に感じていたのでしょう。

  しかし侍は、もとの妻の病状を知らされても冷ややかな応対を繰り返すば
  かりで、返事のひとつも寄越すわけではありませんでした。

  そんなある日のこと。
  もとの妻が病の体をおして筆をにぎり、震える手で久しぶりに手紙をした
  ためたことがありました。童がそれを侍のもとへ持っていくと、チラッと
  中を見て「確かに見た」と言ったきり、事も無げに手紙を棄ててしまいま
  した。

  童がしょんぼり帰ってゆくうしろ姿を遠く見ながら、侍の同僚がなにげな
  く落ちた手紙を拾い上げてみると、中には震える文字でこうしたためてあ
  りました。
  
   ┌─────────────────────────────┐
   │問へかしないくよもあらじ露の身をしばしも言のはにやかゝると│
   └─────────────────────────────┘
      ┌            私はもう生きる世もない露の命            ┐
      │           もうすぐ私は死ぬのでしょう……           │
      │         でも最後にどうかどうかもう一度だけ         │
      │             お便りをくださいますように             │
      │                                                    │
      │               こんなしうちを受けても               │
      │             今でもあなたを愛しています             │
      │          そのあなたのお言葉をいただけたら          │
      └    たとえわずかでも命をながらえるかもしれません    ┘

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■ 魂の一首・伝わるこころ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  手紙をひろった同僚は手紙を見て哀れに思い、国守である源道済にひそか
  に手渡しました。すると道済はすぐに女のもとへ使いを送り、その後侍を
  呼びつけて――。

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   ◆ 道  済 「このような手紙がわしの手元に届いておる。
               ――いかなるわけか?」
   ────────────────────────────────
   ◇   侍   「いや……実はこちらに来て新しい妻が出来まして……」
   ────────────────────────────────
   ◆ 道  済 「この一首には真摯な魂が宿っておる。いかなる理由があろ
               うと、返事も返さぬという法があろうか!!(怒)」
   ────────────────────────────────
   ◇   侍   「いや……それは……その……」
   ────────────────────────────────
   ▽ 使い者 「筑前守様、ただいま戻りました。かの女は手紙を出したあ
               と、童の帰りを待たずに死んだとのことです」
   ────────────────────────────────
   ◆ 道  済 「む、む、む!!――キサマ、これまで何かと目をかけてきて
               やったものを、女ひとり平然と見殺しにするとは――なん
               たる非人情!
               ――キサマには人の道の情けも通じぬのか!!(激怒)」
   ────────────────────────────────
   ◇   侍   「も……申し訳ございませぬ!!」
   ────────────────────────────────
   ◆ 道  済 「許さぬ!!絶対に許さぬ!!キサマわしの前に二度と顔を出す
               な!!今すぐこの国から出てゆくのじゃ!!これまで与えてき
               たものことごとく没収してくれよう!!」
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  侍は逃げるように飛び出し、国じゅうをさまよいあるきましたが、烈火の
  ごとく怒った筑前守は追及の手をゆるめず、どこまでも追いたてました。
  侍はついに新しい妻のもとへ帰ることもできず、無一文で消えていったの
  です。

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  道済はその後、もとの妻の亡きがらが見苦しくならぬようにと、艶やかな
  衣裳を送らせ、僧を遣わしたりして、ねんごろに弔わせました。
  妻が末期に詠んだ魂の一首は、最後まで愛する夫の胸には届かなかったも
  のの、雲の上の国守のこころに大きく響いたのです。

  この一件はすぐに噂として広まり、やがてもとの妻が切ない心情を込めて
  つづった辞世の句を、人々は「名歌」と讃えるようになりました。

  そしてたった一首の歌から女の怨み辛み悲しみ……それらすべての心情を
  酌み取った源道済を、人々は敬愛の念を込めてこう呼んだのだそうです。

  「歌仙」――。

                               原話『今昔物語集』 脚色 江幡 (65%)

 

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