京都せんべいおかき専門店【長岡京小倉山荘】今昔物語集 宇治拾遺物語 古今著聞集 古本説話集 〜平安の物語〜

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 【平安の物語】四年ぶりの再会!!棄てた夫と棄てられた妻と

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       │ ■ 〜まえがき〜 夏だからちょっと不思議な話パート2 │
       │ ■ 野心に燃える夫・献身を忘れぬ妻                  │
       │ ■ 気楽な任国での生活――貧困からの脱出と後悔      │
       │ ■  4年後の再会――昔のままの女                    │
       │ ■ 一夜の再会・うたかたの夢                        │
       └──────────────────────────┘
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■ 〜まえがき〜 夏だからちょっと不思議な話パート2
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    前回にひきつづき、平安時代のちょっと不思議な物語をご紹介したい
    と思います。──と言っても決して怖い話ではありませんので怪談が
    苦手な方もご心配なく!

    今度のお話は『今昔物語集』の中でも「名編」の誉れが高い物語で、
    私が大好きなお話の一つです。江戸時代に上田秋成が著した名作『雨
    月物語』の中の一編も、これからお話しする説話を題材にして成立し
    ました。

    最後まで読まれてすこしでも興味を持たれた方は、ぜひ『雨月物語』
    を読んでみてくださいね。私の愛読書なんです!

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■ 野心に燃える夫・献身を忘れぬ妻
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    むかし都に身分の低い、貧しい侍がいました。
    世は不景気でしたので、職を求めるあてもなく、貧しいながらも細々
    とつないできた生活はついに行き詰まって、明日の食べ物も知れぬと
    いう苦境に立たされてしまいました。

    ちょうどその時のことです。侍の古い知り人がとある国の国司に任命
    され、「一緒に連れて行ってやろう」と助け船を寄越してくれました。
    彼は藁をもすがる思いで、一も二もなく了解しましたが、ここである
    問題が発生しました。

    侍には、数年来仲むつまじくすごしてきた一人の妻がいました。
    年は若く、容姿は美しく、気持ちも一途で愛らしい。どんなに貧しい
    時でもこの申し分のない妻とは互いに励まし合い、助け合って今日ま
    で生きてきましたが、いざ遠国へ連れてゆけるか?と考えてみると、
    彼は心細さを隠せませんでした。つまり――、

    「できることなら、もっと裕福な家の娘を連れ添ってゆきたい──」

    これまで貧困の極みにいた男が、ようやく雲の上へのぼる糸をつかみ
    かけようとするとき、その目はもうかつての貧しい生活を顧みてはお
    らず、早くもゆくすえの繁栄を夢見はじめているのでした。

    胸の野心に火のついた男がその後とった行動は、非情なものでした。
    どんなに貧しくどんなに周囲から蔑まれようと、全身全霊で尽くすこ
    とを忘れず、たった一人自分を認めつづけてくれていた妻を離縁して、
    夫は裕福な家に新しい妻を設け、そのまま二人任国へと旅立ってしま
    ったのです。

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■ 気楽な任国での生活――貧困からの脱出と後悔
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    国司に従って下った任国では、気楽な生活が侍を待っていました。
    旧知の国司にそこそこの地位を与えられ、部下を従える身分になって、
    仕事にも精が出る。新しい妻との間に子が生まれ、家庭生活にも張り
    が出る。何よりこれまでと違うのは、あくせく働かなくても食うに困
    らないという夢のような境遇なのでした。

    しかし、男はしょせん後悔する生き物――。
    我が身が幸せになればなるほど、思い起こされるのは都に棄ててきた
    前妻の身の上でした。

    今ごろはどうしているだろうか?
    美しく気だても良い女だから、きっと良い夫に巡り会っているだろう。

    心の後ろめたさをうち消そうとするかのように、侍はひたすら前妻の
    幸せを願わずにはいられませんでした。否、彼はこの時すでに後悔し
    ていたのです。
    「前妻ほどの素晴らしい女性はいない」――月日が経つにつれ、その
    ことが次第にハッキリと思い知らされ、逢いたい気持ちがいよいよ募
    っていったのでした。

    国司の任期が果てる 4年後の秋。
    彼もまた、都へ帰る一団の中にいました。帰京の時をずっと待ち焦が
    れていた彼でしたが、望郷の想いに駆られたわけではありません。任
    国に下って 2年を過ぎる頃には、もう前妻がいとおしくていとおしく
    てたまらなくなり、それからずっと再会を切望してきた彼です。

    都へ着くなり、彼は真っ直ぐに前妻の家へ向かいました。

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■  4年後の再会――昔のままの女
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    前妻の家の前には、旅装束も解かないまま、呆然と佇む侍の姿があり
    ました。見れば庭や建物はひどく荒れ果て、雑草が茫々と生え、家の
    柱は腐って倒れかけていて、人が住んでいるとは到底思えないけしき
    です。そのあまりの変わり様を、彼はにわかに信じられなかったので
    した。

    彼は前妻の名を叫びながら家に駆け入りました。そこに――。

    その暗がりの中に――ぽつんと小さな影がひとつ。
    ところどころ穴の開いた床の上に、淋しそうにがっくりとうなだれて
    いる女の姿があります。その目はズカズカと進入してきた侍を認める
    と、一度まん丸にひろがり、次にパッと花が咲いたように華やいで、
    すぐ涙を溢れさせました。

    「あ……あなた!!」

    朽ちた屋敷の中で、たったひとりぽつねんと座っているのは、 4年前
    と何ら変わるところのない、美しいままの前妻だったのでした。

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    ◇ 前  妻 「あ……あなた!!  いつ、いつお帰りになったの?」
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    ◆   侍   「たった今じゃ!都に着いてすぐお前のもとに飛んできた
                のだ!!」
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    ◇ 前  妻 「あぁ……あぁ……嬉しい……。ずっと貴方を待っていた
                のですもの」
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    ◆   侍   「わしも逢いたかったぞ……。それにしてもなんとひどい
                生活じゃ。明日は任国から持ち帰った品々を持ってこさ
                せよう。衣もあるぞ。宝石もある。わしはあの頃とは違
                う、好機を掴んで富と地位を手に入れたのじゃ」
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    ◇ 前  妻 「ええ、ええ、そうでしょう。貴方はいつかご出世なさる
                とずっと信じておりました。本当に嬉しいわ。こんなに
                ご立派になられて」
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    前妻は心から嬉しそうに頬笑んだ。欠けた椀を取り出して、
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    ◇ 前  妻 「長旅でお疲れでしょう。さ湯しかありませんが、今お入
                れします」
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    と、手ずから湯を入れて持ってきた。かつてはいかに貧しいとは言え、
    それは使用人の仕事であった。侍はこのとき初めて詫びた。
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    ◆   侍   「苦労をかけてすまなかった……」
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    ◇ 前  妻 「よろしいのです。貴方が戻ってきてくれただけで、嬉し
                くて嬉しくて胸が弾けそうです。秋の夜長と申しますけ
                れど、貴方も一夜では語り尽くせないご経験をされたこ
                とでしょう。夜が明ける前に全部、全部お聞きしたいわ」
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    こうして四年ぶりに再会した二人は、四年前と同じように睦まじく肩
    を抱き合い、添寝して、夜明けちかくまで語り合ったのでした。

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■ 一夜の再会・うたかたの夢
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    翌朝。
    キラキラと照りつける朝日に目を覚ましかけた侍は、横で寝ていたは
    ずの前妻がいないことにハッと気づきました。というのも、柔らかな
    肌をかき抱いて添寝した昨夜の感触がまだ記憶に新しいのに、しかし、
    今彼の手が支えているものはいかにも硬い「何か」だったのです。

    彼は布団をめくってみました。
    そして同時に割れそうな悲鳴をあげました。そこには、骨と皮ばかり
    になった女の亡きがらが、我が身に寄り添うように横たわっていたの
    です。

    侍は驚きのあまり前妻の家を逃げだし、ちかくに住む老爺の家に駆け
    込みました。そして遺体があったことを告げると老爺は――。
    「ああ、何でも男に棄てられ、嘆いて病みついた女がおったそうじゃ
    が、その年の夏に死んだようじゃ。弔う者もなくてそのままにしてあ
    るから死体も残っておるじゃろうな」

    侍はがっくりと肩を落とし、昨夜の夢のような再会を思い返しながら、
    ふらふらと前妻の遺体のもとへ舞い戻りました。脱力しきった彼が遺
    体へ目を向けると、すぐそばに色あせた紙が一枚落ちています。よく
    よく見ると、そこには明らかに前妻の筆跡で、本院の中納言・敦忠卿
    の名歌が――それこそは亡き前妻の辞世の句だったのでした。

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       │さりともと思ふ心にはかられて世にもけふまでいける命か│
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       ┌            私を棄てて行ってしまった夫が            ┐
       │               いつか必ず、いつか必ず               │
       │    戻ってきてくれるはずだという願いを棄てきれず    │
       │                                                    │
       │        たったひとりぼっちの女の浮き身で私は        │
       └     今日の今日まで細い命をながらえて来たのです     ┘


    侍は遺体にすがって深く深く頭を垂れた。
    そして声をあげ泣き崩れたのでした。


                   原話『今昔物語集』『雨月物語』 脚色 江幡 (80%)

 

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